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はじめに
村民が身近に戦争を意識したのは、一九四四年（昭和十九）の十・十空襲からであろう。その日、早朝から北飛行場や座喜味城跡の高射砲陣地などが爆撃を受け、民間地域も若干の被害を被った。特に役場のあった喜名では、大通りの郵便局の南一帯の民家四〇軒あまりが焼失した。この空襲は住民にとって初めて体験した戦争であった。
攻撃の第一目標となった北飛行場は昭和十八年頃から建設が始まった。当時、村長は各字の懇談会等の会場で「読谷に飛行場ができたならば、読谷は都（みやこ）になる」と語ったことが知られている（「読谷村史研究資料」６―２・�癸掘法Ｈ�行場建設を村の活性化として捉えていたことの証である。現に当時の喜名の様子を『喜名誌』（喜名公民館、一九九八年二月発行）からみると、「喜名から座喜味の学校に通じる道のそばに茅葺きの労務者を収容するカンパンが四棟も建って」（三四三頁）おり、「建設現場には仕事があり、わりと良い賃金が貰えるというので各地からやってきた作業員が喜名の民家に間借り」（三四四頁）し、さらに「住民は戦況を知らされてなく、人夫は各地から集まっていたので、各地方のなまり言葉が飛び交い、ドッと笑いが起こるなど、笑いと人波の賑わいがあった」（三四五頁）のである。
字渡具知では、港や採石場としての利益を得る反面、飛行場に続く道路拡張等による土地接収があり、次第に「戦争」が生活を揺るがすようになっている。当時の一般村民としては、役場職員になることより、飛行場建設の労務として働いた方が給料が高いという特需景気の一面も窺える（前掲「読谷村史研究資料」）。
昭和十九年三月頃になると、日本軍の駐屯も始まり、村役場の供出係が各字からの食料品を徴収するようになる。徐々にではあるが食糧事情も深刻さを増してきていた。
そして昭和十九年十月、米軍艦載機による沖縄諸島の攻撃により、事態は急変し、満十七歳から四十五歳までの健康な男子は防衛召集（第一次召集）となる。昭和二十年一月には防衛隊の第二次召集が行われ、二月になると沖縄県も戦時行政となり、市町村単位の国土防衛義勇隊の編成が始まる。さらに沖縄本島中南部住民の本島北部（山原）方面への疎開を決定した。三月下旬からは、沖縄本島への米軍艦載機による爆撃が本格的となり、それに対応するかのように国民勤労動員令が公布され、満十五歳から四十五歳までの男女が何等かの形で、戦争に動員されている。わずか一か月で男子のみが男女となり、年齢も十七歳から十五歳に引き下げられているのをみると、状況がいかにせっぱ詰まっていたかが伝わってくる。
しかし、刻々と迫ってくる戦況のなかで、国頭村に避難地を設けて、村民の避難対策を講じていた役場の勧めにも、村民の反応は鈍く、それ程の対応はみられなかった。辛うじて、飛行場に近い部落や婦女子等が先発隊として避難しているに過ぎなかったのである。
実際に山原への避難が一般化するのは、読谷山村民が上陸前大空襲を目の当たりにした三月二十三日の夜からであった。その日は村内の各国民学校の卒業式が予定されていたが、それどころではなかった。二十五日に村長は、「米軍上陸の恐れあり」と全村民に避難命令を出した。その頃、中南部から国頭へと避難する人々で道は混雑していた。それでも一部の住民は二十七日頃まで艦砲射撃を受けながらも、村内の壕や墓・ガマ等に避難していた。
村役場が解散したのは、二十八日頃と言われている。混乱状態のなかでは、公務遂行の終わりという意味の正式の「解散命令」もなく、各々の判断に委ねられた。
その後、三十一日まで激しい艦砲射撃を浴びせられ、米軍が上陸したのは一九四五年（昭和二十）四月一日、朝のことであった。本島中西部海岸（現在の北谷町、嘉手納町、読谷村）一帯が上陸地点であり、国頭方面等への避難をしなかった人々や避難できずに残った人々は、ほとんどがこの日に収容され、米軍の保護下に入った。
本稿では、太平洋戦争勃発前後から村役場が解散したといわれる昭和二十年三月末までに公務に就いていた人々について、その職務や動きを、聞き取り調査や『読谷村史』、その他関係する諸資料や字誌等からまとめることにした。なお、公務といってもいろいろあるので、当時住民に身近な存在だった役場職員・区長・教員・郵便局員・県職員等に限定し整理した。
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