「戦時記録」下巻
発刊のことば
読谷村長 安田慶造


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読谷村長 安田慶造
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 ここに、『読谷村史第五巻資料編4 戦時記録下巻』が発刊されますことを、心から喜びごあいさつを申し上げます。
 今回は上巻以上に多くの先輩方の証言をとりあげ、さらに米軍の英文資料や防衛庁から収集したデータ等を駆使した内容になっております。
 沖縄全体は勿論、各字の戦前・戦中・戦後の生々しい姿、そして県外、海外での先輩各位の大変なご苦労の様子が手に取るように見えてまいります。
 この度の下巻の発刊をもって、「戦時記録」は完成をみたことになります。この上・下巻をお読みいただき、多くの皆様方に戦争を取り巻く世相を知っていただき、あらためて平和について考える機会にしていただければ幸いに存じます。
 戦前世代あるいは悲惨な戦争を、身をもって経験した沖縄県民として、今の我が国の動きに大きな不安を抱いている方も少なくないはずです。戦争の世紀と呼ばれた二十世紀から対話と協調の二十一世紀へ変わることを全人類が期待したはずなのに、あに図らんや日本の状況はあらぬ方向に進むのではと危惧するものであります。
 いかなる理由にせよ「聖戦」はないと思っております。戦争は兵士のみでなく、国民全てを巻き込むものであり、とくに沖縄戦においては肉親を失い、家屋敷を焼き払われ、飢えと疲労に苦しみました。人々の心と体に残された傷は半世紀以上経った今も癒えることはありません。
 戦争体験者が少なくなり、戦争の記憶が風化しつつあると言われる今、過ちを繰り返さぬよう平和の尊さを伝え説くことは我々世代の責務だと思うのであります。
 忘れたい悪夢に口を閉ざされる方も多いことも事実で、それはまた、戦時体制下でいかに愚かで非人間的な行為がなされていたかを物語るものでもあると思います。
 その意味におきましては、執筆されました方々や聞き取り調査にご協力を賜りました皆様方にはご無理なお願いもしてまいりましたが、過去を思い起こしてお引き受け頂きましたことに心から敬意と感謝を申し上げる次第であります。
 ただ、ご協力を頂きました先輩の中には、発刊を待たずして他界された方もおられますことは誠に残念であり、心からご冥福をお祈り申し上げる次第であります。
 今日の沖縄、引いては日本の繁栄は皮肉にも多くの先輩方の悲しい犠牲と、中国、東南アジア、南太平洋の島々の多くの人々の犠牲の上にうち立てられたといっても過言ではありません。
 戦前世代から戦後世代へ「平和」のたすきを確実に引き継ぎ、子や孫達に同様な苦しみを絶対に味わってほしくないと切に願うばかりであります。
 最後になりましたが、本事業の推進のためにご協力、ご尽力を賜りました関係各位に衷心より敬意と感謝を申し上げ、発刊のごあいさつといたします。
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