「戦時記録」下巻
発刊に寄せて
読谷村教育長 比嘉隆


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読谷村教育委員会 教育長 比嘉隆
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 戦後五八年余の歳月が流れ、県人口も戦後生まれが約八割を占めるようになって、「沖縄戦の風化」もさらに進んだように思います。さらに、世界情勢では二〇〇三年三月からのイラク戦争、二〇〇四年一月の自衛隊のイラク派遣とまさに激動のなかにあります。こうした時代だからこそ、私たちの親、祖父母の世代、そして自分自身の世代の戦争体験も含めて、歴史的事実を後世に正しく継承していくことは極めて重要なことであり、さらにその必要性を増したと思っております。
 顧みますと私たちの少年時代は、国家の言うことに何ら疑問を持たず、信じ込むだけの教育が徹底された時代でありました。その反省から、多くの人々が二度と戦争を起こしてはいけない、起こさせてはいけないという強い思いを持ちました。
 読谷村民の戦時体験を聞き取り、それをまとめていく作業は難渋の連続でありました。体験を語る人々にとって、まさに「あの時」を生きた人々にとっては、単なる過去ではありません。いま目前にその現実があるかのごとく鮮明な映像として記憶しているだけに、話すことのつらさ、苦しさを乗り越える意思とエネルギーが必要でありました。そうして聞き取った体験談ですが、文章化することで臨場感やニュアンスをうまく伝えきれていないといった反省も生まれました。そうした部分を補っているのが、米軍資料や防衛庁資料、残された行政文書等であります。証言記録と共に、データ化された多くの史資料が裏付けとなっており、相乗効果を生み、さらなる沖縄戦理解の一助になるものと期待しているところであります。
 終わりに、本書の発刊にあたり調査に快く応じていただきました村民のみなさま、村史編集委員をはじめ、執筆者、調査に当たられた多くの村民、関係者のみなさまのご協力ご支援の賜と深く感謝を申し上げます。さらに、本書の上梓を見届けることなく他界されました証言者の方々に心からなる哀悼の意を表し、発刊のあいさつと致します。
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