「戦時記録」下巻
発刊のあいさつ
編集委員長 宮城傳


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読谷村史編集委員会 編集委員長 宮城傳
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 読谷村史編集室では、二〇〇二年三月に『読谷村史第五巻資料編4 戦時記録上巻』を刊行致しました。この度その続編として『戦時記録下巻』を上梓するに当り、編集委員会を代表してごあいさつを申し上げます。
 『戦時記録下巻』の内容は、「第三章 史(資)料にみる読谷山村と沖縄戦」「第四章 米軍上陸後の収容所」「第五章 帰村時行政文書にみる村民移動」「第六章 証言記録」「第七章 慰霊の塔は語る」及び「付録」で構成されております。
 『戦時記録上巻』においては、読谷村民が体験した沖縄戦を、沖縄戦の実相、諸相や村民の戦争体験等(海外も含めて)を総括的、概観的見地から収録・編集致しました。
 『戦時記録下巻』は、防衛庁資料をはじめ、日米両軍の厖大(ぼうだい)な記録を渉猟(しょうりょう)し、さらに村役場の戦後帰村時の諸資料等を丹念に掘り起こし、要約収録致しました。
 村民の体験記(談)も、長年にわたり広く村内全二二字民から悉皆(しっかい)調査を行い、あるいは個人への聞き取り調査を行ってまいりました。その結果、応募体験記を含めて、実に六〇〇余話が集まりました。本書には、村内全字を網羅して掲載しております。しかしながら、紙幅の都合上割愛したものもございますが、上下巻をとおして、語られた体験のエッセンスは随所に生きていると自負しております。
 沖縄戦は未曾有の、不条理で苛酷な「鉄の暴風」の来襲でありました。
 村民約四千名の尊い命を失いました。辛うじて生き残った無辜(むこ)の老若男女は、絶え間なく飛来し炸裂する砲弾に脅え、飢餓に瀕しながら徘徊し、あまつさえ、上陸軍の非道に泣き、また時に友軍の無法に耐えながら、残喘(ざんぜん)を保ってようやく帰村にこぎつけました。
 とまれ、平成十有六年の今日、沖縄戦終結から早半世紀以上の歳月が流れ去りました。沖縄戦の「体験者」も、ますます加齢し、また多くの人が鬼籍(きせき)に入りました。
 往事茫々(おうじぼうぼう)は、人の世の常とは申せ「沖縄の戦争」は、風化の危機に晒(さら)され、通俗化の現実を招来しております。
 私は『上巻』において、戦争は「悪の極致」と断じました。先哲は、さらに人間の作り出した「犯罪の極み」とも言っております。幸いなことに、日本国は、沖縄戦を含む太平洋戦争の反省に立って、憲法第九条で、「戦争を永久に放棄する」ことを高らかに謳い、平和への誓いを世界に向けて発信しております。
 本村の『戦時記録上・下巻』が村民及び県民、さらに日本国民、ひいては世界の人々に戦争の悲惨さ、苛酷さ、そして空しさを広く訴え、平和の尊さ、その構築への努力が焦眉(しょうび)の急であることを知らしめ、その警鐘となることを心から祈念致します。
 最後になりましたが、本書刊行にご協力下さいました村民の方々及び資料を提供して下さいました各位、そして関係各機関並びにご執筆くださり、あるいは座談会にご出席くださいました方々に対して、深く感謝し、厚くお礼を申し上げます。
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