うぬ男ぬ、ガチやてーるばーてー、蛸ぉ取ってぃ来にかい、煮る道具ぉ無んばーてー、鍋ぇ。無んなたくとぅ、隣んじ羽釜借てぃ来るふーじ。
羽釜借てぃ来っ煮ちゃくとぅ、隣ん少ぇ知恵持ちやてーるばーてー、隣ぬ人ん。今ねー、蛸ぉむげーいる時分ぉ、上んかい手やうっ返てぃ、大ぎくないんでぃ。あんとぅ、「今ねーなー、あれー滾とーる時分やくとぅ、羽釜取ってぃ来わるやっさー」んち。
あんさーかい、「いぇー、私たー今、羽釜使いくとぅ、羽釜取らさんなー」んちゃくとぅ。見しらんよーい、そーまりーいっけーらちぇーるしじやしが、羽釜んかい張っぱてぃ、汁る落てぃたる、実や落てぃらんしぇーやー。
あんさーにかい、うぬ人が行ちから、「蛸かマジムンか、蛸かマジムンか」んち、ひっちー叫びーたんでぃ。男ぬガチなてぃ、自分一人、煮ち食いんでぃさくとぅ、「蛸かマジムンか」んでぃやぎんどー、ひっちー。あんさーにかい、「蛸ぉ洗てぃ入ったん。火ぃ燃ちゃん。滾たん。蛸かマジムンか、蛸かマジムンか」んちぇーしーしーすたんでぃ。
あんさくとぅ、後ぉ隣や可笑はぬにじららんしぇーやー。後ぉ持っち来にかい、「いぇー、男ぬやーガチングェーしねー、ぃやーや『蛸かマジムンか』んでぃしがやー、『蛸かマジムンかー』あらん、むげーとーる万事に、羽釜んかいうぬ蛸ぉ張っぱてぃ落てぃらんぐとぅ。ぃやーわちゃくすんでぃる取ってぃ来る、うりっ、ぃやー蛸ぉ」ん、取らちゃくとぅやー。
「私ねー、うれーそー蛸やたがやー、マジムンるやたがやーんでぃ思たるむのー、本物やびてーさやー。あんしる私ぇ、「蛸かマジムンか、蛸かマジムンかんでぃ言やびたんでー」んちよー。
あんし、話ぬ狂言かいや、ちゃー「蛸かマジムンか」んでぃ言しぇー、ちょいちょい。あんしる、あん言ちぇーるふーじどーやー。
その男は、食いしん坊だったんでしょうね。蛸を取って来たものの、煮るための鍋がない。それで、隣から羽釜を借りて来たそうだ。
食いしん坊は借りて来た羽釜で蛸を煮ていたが、隣の人もちょっと知恵があったんでしょうね。蛸は熱湯の中では反り返るのを知っていたので、「そろそろ蛸が煮立っている頃合いだから、羽釜を返してもらおう」と隣に行った。
「おい、私はこれから羽釜を使うので返してくれないか」と、隣から言われた食いしん坊は、慌てて見られないように中身を移した。ところが、蛸は羽釜の蓋にくっついたままで、手元に汁だけが残り、それに気づかず羽釜を返した。
隣の男が帰った後、食いしん坊は自分一人だけで食べようとしたら蛸が無い!「あれは蛸だったのか、マジムン(化物)だったのか」と叫んだそうだ。「蛸を洗って羽釜に入れた。火を燃やした。煮立った。煮立ったのは蛸か、マジムンだったのか」と繰り返し叫んでいたそうだ。
それを隣で聞いていた隣の男は可笑しさをこらえきれずに吹きだした。それで、隣の男は食いしん坊のところにやってきて、「なあ、お前は男のくせに盗み食いをするなんて。『蛸だったのか、マジムンだったのか』とお前は言うけれど、そんなことはない。煮立ったら蛸は羽釜の蓋にくっつき落ちないものだよ。お前をからかうつもりで、羽釜を取りに来たんだよ。ほれ、お前の蛸はここだよ」とあげたそうだ。
食いしん坊の男は「蛸は本物だったのか、マジムンだったのかと思い、それで蛸かマジムンかと叫んだんですよ」と言った。
そういう内容の、「蛸かマジムンか」という喜劇がよく演じられていたよ。