読谷村しまくとぅば「むんがたい」

勝連バーマー かっちんばーまー

話者 伊波蒲戸(1894・M27) 地域 伊良皆 時間 03:03
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 勝連(かっちん)バーマーは、なー、あれー、(んかし)ぇよ、首里(すい)中城(なかぐしく)御殿(うどぅん)(めー)なかい魚小堀(いゆぐむい)んち()たしぇ。あぬ(いけ)()いによ、大昔(おおむかし)てーうれー、あぬ(いけ)()いにありすたんでぃ。


 「勝連(かっちん)(ぶー)時間(じかの)ぉちゃー(うく)りてぃ、あんしぇーならんしが」でぃ、「あーなー、勝連(かっちの)此処(くま)から(とぅー)さくとぅ、あんしるないびらん」でぃ。「あー、うれー、時間(じかの)時間(じかん)ぬぐとぅしわるないる。(んーな)一時間(いちじかん)なー経過(けいくゎ)そーしが、いったーや(んな)がしっから、うっさ経過(けいくゎ)しぇーならのーあらに」んちゃるふーじ。



 「あんるんやらー、なー、今日(ちゅー)(ちち)()がい(かじ)りーしみてぃきみそーり」んちゃるふーじ、(ゆーる)ぬ。だー、十日月(とぅかぢち)ぬ、十日(とぅか)るないたんでぃくとぅ、うりが(はなしー)しーねー。「十日月(とぅかぢち)()がいる(えーま)しみり」でぃち相談(そーだの)ぉさぐとぅ。十日月(とぅかぢち)二時(にじ)三時(さんじ)まんぐら()がいるふーじ。あー、人後(ちゅあとぅ)から(ちょー)てぃ人先(ちゅさち)、「とー、十日月(とぅかぢち)()がとーぐとぅ、りか(やー)かい」んち、部下(ぶか)(ちゃー)(そー)てぃ(ぅん)ぢぇーるふーじ。



 あんなー全員(むる)、ありなかい()たってぃなー、其処(ぅんま)班長達(はんちょーたー)全員(むる)、ありなかい()たってぃならんよー。勝連(かっちん)バーマーなかい()たってぃならんなてぃさい、「なーうれー、(ぼー)さんあれーならん」、其処(ぅんま)班長(はんちょう)が。「()ぅ、ぃやー今日(ちゅー)()(はちまち)(かん)とーしが、ちゃーるばーが。(はちまち)ぇー(よー)とーらー()てぃやーい、新物(みーむん)また(こー)てぃ()んらんそーてぃ、()(はちまち)(かん)とーる」んちゃくとぅ、「勝連(かっちの)山羊(ひーじゃー)(どぅくる)なやーい、うぬ山羊(ひーじゃー)ぬるなー、うぬ(はちまち)ぇうちゅ(くゎ)てーる」んちゃくとぅ、「とーあんるんやらー、山羊(ひーじゃー)ぬまんどーらー、山羊(ひーじゃー)上納(じょうのう)し」んち、あんさー、うり(てぃー)ちぇーなー、また()たってーるふーじ。


 


 あんさーに、わじゃわざ、なー、(なーか)()りとーるオーラー(いら)でぃ。勝連(かっちん)バーマー班長(はんちょう)やくとぅ、うり(いら)ばーい、うりなかい()りらち(かた)みてぃなー、(すば)んかい()ぎたぐとぅ。だー、(すば)んかい()っち(ちゅー)(えーま)ねーけー()てぃ、ちゃー()(みち)くでぃ。あんしんしちゃんでぃる(ゆー)やくとぅよー、あんしん(とぅー)すたんでぃる(ゆー)


 


 なーうりん()まち、今度(くんど)ぉなー、其処(ぅんま)仕上(しあ)げなたぐとぅよー、あぬー魚小堀(いゆぐむい)や。魚小堀(いゆぐむい)仕上(しあ)げなやーい、班長(はんちょー)(ちゃー)なー(ちじ)んかい(くゎい)やてーるふーじ。「でぃー、今日(ちゅー)(くゎい)(ちーじ)んかいやー」んち、する(とぅくる)()みたくとぅ。何処(まー)何処(まー)んけーどーやーでぃ()みたくとぅ、「うぬ(くゎい)(ばー)()きーる(はなしー)しーるんさー、うぬ会費(くゎいひ)ぇ、今日(ちゅー)会費(くゎいひ)ぇうりんかい()たしよーやー」んち、また(はなし)(ぅん)じゃちょーるぐとーん、勝連(かっちん)バーマーが。


 なー、会場(くゎいじょー)んかいわじゃわじゃ(あとぅ)なてぃよー、うぬ勝連(かっちん)バーマーや、(あとぅ)なてぃさくとぅ。なー、(さき)ぐゎーん()でぃ、御馳走(くゎっちー)()でぃなー、ふみちぢ(ゐー)とーる時分(じぶん)(ぅん)ぢぇーるふーじ、勝連(かっちん)バーマーや(あとぅ)なてぃ。(ぅん)ぢさくとぅ、「(ぬー)がバーマー、ぃやーや、あんし(なま)でぃー。時間(じかの)ぉひゃー何時(なんじ)なとーくとぅ」んちゃくとぅ。「あー、(わん)ねー(ひるま)しー(くとぅ)、なー御無礼(ぐぶりー)ないやさにでぃ(うむ)てーういやすしが、なー(みじら)さぬ、うり(ぅん)じゅんりるなー(なま)でぃーなとーる」んちゃくとぅ。「ぬが(ぬー)やが」り、「木羽釜(きーはがま)んかい(むぬ)()()まぎーし(ぅんー)じゃーい、ハッシャ、(ひるま)さぬ、(あとぅ)なとーいびーんでー」んちゃぐとぅ。「木羽釜(きーはがま)んかい(むぬ)(にー)ねー、うぬ羽釜(はがま)()きーさに」んちゃくとぅ、「とー、今日(ちゅー)会費(くゎいひ)貴方(うんじゅ)がどーやー」でぃ、会費(くゎいひ)(ぬがー)たんでぃぬ(はなしー)

 首里の中城御殿の前に魚小堀(龍潭池(りゅうたんいけ))というのがあるでしょう。勝連バーマーの話はね、あの池を造ったときの話だよ、大昔のこと。


 「勝連の人夫はいつも時間に遅れて、こんなことではいけない」と役人が言うと、「いやもう、勝連はここから遠いので、間に合わせることができないんです」と、勝連バーマーが答えた。しかし、「いや、時間は守りなさい。他の皆が仕事を始めてから一時間になるよ、お前たちは、こんなに遅れてはいかん」と言われたそうだ。


 それで、勝連バーマーは「それじゃ、今日は夜の月が上がるまでさせて下さい」と言ったようだね。しかし、ほら、勝連バーマーがその話をしたのは十日のことで、十日月は昼の二時、三時頃に上がるのを知った上で、「十日月の上がるまでさせて下さい」と、そうとは知らない役人の了解を得たわけだよ。それで、人より遅れて来て人より先に、「もう十日月はすでに上がっているから、さあ帰ろう」と言って、部下を連れて帰ったようだ。


 このように、役人やそこの班長たちも皆、いつも彼の策にやられていたものだから、「もうこいつをなんとかやっつけたい」と、そこの班長は考えていたんだね。ある日、「今日のお前の破れた(はちまき)はどうしたんだ。破れたは捨てて、新しいのを買って被ればいいのに、破れたなんか被って」と、勝連バーマーをからかったんでしょうね。勝連バーマーは負けじと、「いえ、勝連は山羊の名産地で、そのたくさんの山羊が全部、()ってしまうんだ」と答えたようだ。そこで、「ああ、そうか。そんなに山羊が多いなら、山羊を上納しなさい」と言われ、その時ばかりは勝連バーマーがやられたようだ。


 勝連バーマーは、わざわざ、中が破れているモッコを選んでね。それに石や土砂などの荷を入れさせて担いでいたそうだ。ところが、池の側まで持って来る間には、その荷の殆どは漏れ落ちるでしょう。班長の勝連バーマーは軽くなったモッコを運んで、同じ道を行き来していたって。その当時は、そういうことをしても許された時代だった。


 そんなことをしながらも、龍潭池(りゅうたんいけ)が仕上がったので、班長たちは辻遊郭で慰労会をすることになった。「さあ、今日の慰労会は辻のどこそこでね」と、会場を決めて、「その席で焼ける話をしたら、今日の会費は、その人に持たそうね」と、勝連バーマーが提案したそうだ。





 そうして、この勝連バーマーは、会場にわざと遅れて行ってね。遅れて行ったものだから。もう皆は、酒も飲み、御馳走も食べて、大そう酔っていたそうだ。そしたら、遅れて行った勝連バーマーに、「どうしたんだバーマー、こんな時間に、何時だと思うのか」と言った。すると、「ああ、ちょっと珍しいことがあって、もう、大変失礼になるかと思いましたが、もうあまりにも珍しくて、それを見るのに遅くなってしまいました」と答えたら、「どういうことだ」と聞かれ、「木の羽釜で物を煮て食べているのを見て、あれまあ、珍しいことだと見ているうちに遅れてしまいました」と答えた。そしたら、尋ねた相手が「木の羽釜で物を煮たら、その羽釜は焼けるでしょう」と言ったので、すかさず「さあ、今日の会費は貴方が持つんですね」といって勝連バーマーは会費を免れたという話。

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