平田子でぃる人ぉ、田ぁ耕しんしぇーたんでぃしが、此処んかいもーち。あんさくとぅ敵ぇなー、「平田子でぃしぇー何処ん居が」んちゃくとぅ、「あねっ、此処なかい居ん」でぃ、牛なか田る引かすたんでぃしが。田る引かすたんでぃしが、「此処なかい居んでー」でぃなー、平田子ぃ言みそーちゃくとぅ。
あんさくとぅ、「出じてぃ来ぅ」んちゃくとぅ、「いー、出じてぃ来んで」んち。ちゃっぴぬ牛やたんでぃしが、すぐ田ぬ真中とーてぃ牛ぇ引っ立てぃやーに、畦んかいぷってぃかちゃくとぅ。
あんさーに、敵ぇよー、「はーくれー、容易ならんぐてー持っちょーさやー」んち、また飛ん出じやーに。
田ぬ土手んかいすぐなーちゃぴぬマーイサーやさ。うれーなー、私たー若さいねー山から来ぃ、薪ぉうりんかいかきてぃ下るちゃいかみたいすたさ。イーヌカーぬ其処なかい在さ、石ぇ今ん。
うりんなー、しぐ自分一人さーに取やーにぶってぃかちゃくとぅやっ。「アキサミヨー!平田子でぃ言みしぇーる人ぉ、ちゃーる大武士がやみしぇーらー分からん。うっぴぬ牛ん取ってぃぶってぃかすい。またうっぴぬマーイサーん取ってぃぶってぃかすいや。はーなー、くぬ人ぉ怖たむんやっさー」んち、敵ぇ戻いんそーちゃんでぃる話る聞ちゃんでー。
平田子という人は、ここ伊良皆に住むようになってからは畑仕事をしていたそうだ。ある時、牛に犂を引かせて田を耕していたら、敵がやって来て、「平田子というのはどこにいるか」と言ったので、「おお、ここだよ。ここにいる」と、平田子は返事をしたわけだ。
そしたら、「出てこい」と言われたので、「ああ、今、行くよ」と。使っている牛はとても大きな牛だったそうだが、平田子は田の真ん中で、その牛を捕まえて引っ張って、ドスンと畦に放り上げた。
それで、「こいつは、ただならぬ力の持ち主だ」と思っている敵の前に、平田子は田から飛び出してきた。
田の土手にはとても大きな黒石があるけどね。その石は、私たちが若い頃、山での薪取りからの帰り、その石を利用して薪を頭上に載せたり下ろしたりしていたんだがね。その石はまだイーヌカー(上ヌ井泉)の所にあるよ、今も。
その石を平田子が、一人で取って放り投げたものだから、「なんとまあ!平田子という方はどれほど力の強い武士なのか分からない。こんな大きな牛を掴まえて放り投げるし、またこんなに大きな石も取って放り投げるんだから。ああもう、恐ろしい人だ」と、敵は戻って行かれたという話を聞いたんだよ。