読谷村しまくとぅば「むんがたい」

牧原の始まり まきばるのはじまり

話者 比嘉憲一(1909・M42) 地域 牧原 時間 04:38
  • しまくとぅば
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 あぬー、まあ廃藩(はいばん)(さむれー)(ちゃ)ぁちゃーさらー()しがんち、摂政三司官(しっしさんしくゎん)(あち)まやーに協議(きょうぎ)さる結果(けっか)松山(まちやま)御殿(うどぅん)牧原(まちばる)んり、牧場(ぼくじょう)。なー其処(ぅんま)んじ(たげー)()みよーんりやーに()らさったくとぅ。


 其処(ぅんま)からあんさーに、なーうれー百姓(ひゃくしょう)やしぇーんらんるあくとぅ、今度(くんど)ぉちゃーすがんりねー、なーあんしんなー(ぬち)(ちぬ)じゅる(たみ)ねーしわるやるんち、牧原(まちばる)んかい派遣(はけん)さってぃ。その当時(とうじ)八名(はちめい)ぐらい、あぬ(さむれー)(ちゃー)牧原(まちばる)んかい(ちゃー)に、農業(のうぎょう)やすんりさくとぅ()からん。とーくれーちゃーするむんがんち。今度(くんど)ぉある(ちゅ)ぬ、山原(やんばる)から派遣(はけん)しわる、百姓(ひゃくしょう)から派遣(はけん)しわるやるんりやーに。うぬ(たげー)ちさくとぅ、今度(くんどー)なーいよいよ(おそ)わりやーにそーんねやしが。あんさーに、なーうれー山原(やんばる)(ちゅ)んりしん、ただ(くぇー)道具(どうぐ)()っち(ちゃ)るまでぃどぅやくとぅ。


 あんさーに、(さむれー)んかい(ならー)する意味(いみ)し、今度(くんど)ぉいよいよなー山原(やんばる)から(ちゃ)くとぅ。なー其処(ぅんま)牧場(ぼくじょう)やしが、とーくり(やま)るやいすぐとぅ、(たげー)する(たみ)ねー、なー(ちゅく)いる(たみ)ねー山原(やんばる)(ちゅ)(かんげー)(かた)ぬ、(やま)()(とー)さーに、うぬ(みち)んかい(くぇー)(がや)(ほー)やーに(ちゅ)んかい()まさーに、あんさーいうり()ぎてぃ、今度(くんど)堆肥(くぇー)(ちゅく)てぃ(ぅんむ)()ったくとぅ。あぬー、うにーねー出来(でぃき)たしが。うぬ(めー)(はなしー)(さむれー)(ちゃ)()からんるあくとぅ、圃場(ふじょー)んかい(なな)(いー)ねー大芋(うふぅんむ)んち(うっ)さし、生活(せいかつ)そーたんりぬ(はなし)





 あんさーに、それからまあ八名(はちめい)やしが、今度(くんど)山原(やんばる)からん相当(そうとう)()がてぃ(ちゃ)くとぅ。其処(ぅんま)()(とぅくる)やんどーさーに()がてぃ(ちゃ)れー。とー、なー()(とぅくる)んりやーに、全員(むる)開墾(かいこん)()きー勝負(すーぶ)さーなかい。いよいよ今度(くんどー)なー平和(へいわ)んかい(むどぅ)てぃちゃしが。うぬ(さむれー)ん、やっぱりなー続々(ぞくぞく)今度(くんど)首里(すい)から()(とぅくる)やんでぃち()がってぃ(ちゃ)ん。あんし、其処(ぅんま)をぅとーてぃ今度(くんどー)なー三十名(さんじゅーにん)ぐらいなとーたんり、なとーしが。


 今度(くんど)ぉうぬ土地(じー)松山(まちやま)御殿(うどぅん)土地(じー)やしが、今度(くんどー)なーうぬ沖縄(おきなわ)台南(たいわん)製糖(せいとう)んち()たしが、砂糖黍(をぅーじ)(ちゅく)てぃ砂糖(さーたー)(にー)(とぅくる)()くとぅ。今度(くんど)ぉうぬ松山(まちやま)御殿(うどぅの)其処(ぅんま)んかい(かぶ)()っち、台南製糖(たいわんせいとう)工場(こうじょう)んかい(かぶ)()っちゃくとぅ。今度(くんど)()っちゃる(たみ)ねー失敗(しっぱい)さーに、うぬ土地(じー)()らんあれーならんりる立場(たちば)んかいなたくとぅ。


 今度(くんどー)、とーなーうれー、あんしぇー()っちょーる人達(しんか)反対(はんたい)。「()てーならんうぬ土地(じー)私達(わった)(むん)るやる」とぅか。「あー、うれーなーあぬー彼処(あま)んかい()りわるないん」とぅか、今度(くんど)松山(まちやま)御殿(うどぅん)とぅぬいっぱいかっぱいぬ()てぃ。


 所謂(いわゆる)、なーあぬー、あんしぇーならんりち、くぬ牧原(まちばる)んかい(をぅ)人達(しんか)手拭(てぃーさーじ)(かん)てぃ、当時(とうじ)鉦鼓(かにちぢん)()っち会社(くゎいしゃ)んかい()()きてぃ。所謂(いわゆる)なー現代(げんだい)のデモみたような恰好(かっこう)やたんり。あんしし、やしが、いよいよ(じん)にん()みらってぃ、(じの)(ねー)んるあくとぅ、うぬ人達(しんか)ぁ。さーに、今度(くんどー)なー()きやーにかい、今度(くんど)会社地(くゎいしゃじー)んかいなたんりる意味(いみ)なてぃ。(いま)現在(げんざい)会社地(くゎいしゃじー)やるばーて。


 あんしやしが、なー今度(くんど)ぉうりから、まあ、それでも()いんち、なー仕方(しかたー)ならんるあくとぅ。今度(くんどー)なー地叶(じーがね)(はら)てぃ自分達(どぅーな)(むぬ)()まんあれーならんりる(くとぅ)んかいなてぃ。(いま)現在(げんざい)や、なー、戦前(せんぜん)ぬ、戦争(せんそう)、くぬ戦争前(せんそうめー)までー八十所帯(はちじっしょたい)(をぅ)てーびんや。あんしがなー、青年会(せいねんかい)(そん)一位(いちい)ないる農業(のうぎょう)発展(はってん)地域(ちいき)やるばー、牧原(まきばる)という(ところ)は。あんさーなかい、なー今度(くんど)ぉあぬー青年会(せいねんかい)(しち)八十名(はちじゅうめい)(をぅ)い、なー八十(はちじゅう)家庭(ちねー)びかーぬ部落(ぶらく)発展(はってん)牧原(まちばる)やたしが、(いくさ)んかい(うゎー)ってぃ、(いま)現在(げんざい)調子(ちょうし)なとーんりるばーよ。まあ、大体(だいたい)(おおよ)そうぬふーじーやたる(はなしー)

 廃藩で職を失う士族たちの今後をどうしようか摂政三司官らが集まって協議した。そこで、松山御殿の牧場を耕作させ生活するように決めた。



 士族たちは百姓の経験もないので、どうしようかと思いながらも、生活するためには牧原へ行くしかないと、当時八名ほどが牧原にやってきたそうだ。しかし、牧原に来て農業をしようにも、その方法が分からない。さて、どうしたら良いものかと、ある人の提案で山原から百姓を招いて農業を教わることにしたそうだ。それで、山原から百姓が鍬などの農具を持ってやってきたそうだ。





 そうして、彼らに農業を手ほどきするために百姓が山原からやってきた。牧原は牧場として使っているので、周囲は山が多いでしょう。そこを畑にするためには、堆肥を作ることが先決だと山原の百姓は考えた。そこで、山原の百姓たちが始めたのは、山を切り開いて出来た道に茅を放り覆った。人が道を通るたびに踏みつけられた茅を堆肥にし、それを畑に入れて芋を植えたら豊作だったそうだ。それまでは、彼らは圃場に植えた芋が七個しかできてないにも関わらず、大きな芋だと喜んでいたそうだよ。


 そうして、最初は八名だったのが、ここは良い所だと分かって、山原からもかなりの百姓たちが出て来たわけだ。もう本当に、ここは良い所だといって、皆競って開墾してね。いよいよ生活も安定してきたら、首里に残っていた士族も、良い所だと聞いて続々やってきたそうだ。そして、三十名ぐらいになっていたそうだ。



 そしたら、移り住んだこの牧原は、元は松山御殿の土地でしょう。牧原には沖縄台南製糖というサトウキビ製糖工場があって、松山御殿はそこの株を持っていた。ところが、事業の失敗で、その土地を売らなければならない立場に追い込まれた。




 牧原に入植した者たちはそのことを知って、「売ってはいけない。この土地は開墾した私たちのものだ」と反対した。「いや、もう製糖会社へ売らなければならない」という、松山御殿との一悶着もあったようだ。



 そうさせてはならないと、当時、牧原の住民は手拭いを被り、鉦鼓を打ち鳴らしながら会社に押しかけた。現在のいわゆるデモみたいな様相だったそうだ。そうだったが、金銭の交渉で譲歩させられてね、みんなお金は無いものだから、それで、牧原は会社の土地になったということだ。今、現在も会社の土地になったままさ。


 そんな経緯で、しょうがない、もう仕方のないことだからね。住民は食べていくためには借地代を払ってでも、生活しなければならなくなったわけだ。戦前、去る大戦前までは八十世帯ほどあったでしょうね。青年会員も七、八十名はいて、村で一番の農業発展地域として栄えていたよ、牧原は。そのように発展していた牧原だったが、戦に追われ牧原を後にして、今、現在に至っているわけだ。まあ、大体そういうことだ。

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解説

戦後米軍により敷ならされ跡形もないが、戦前は船送りもしたチチェーングーフと呼ばれる見晴らしのよい丘があり、松林となっていたためチチェーンマーチューとも呼ばれた。拝所はその上方にあり、牧原集落形成以前から首里の婦人らが拝していたとも伝わる。1980年に修復し、現在は祠が建立されている。米軍用地内に位置するが、以前は自由に立入ることができ、拝所での祈願のほか、周辺の広場で字行事を行ったり、黙認耕作地での作業のおり家族で憩ったりした。現在は自由に立入ることができず、祈願もフェンス越しの遙拝となることが多い。それでも牧原の人々の精神的なよりどころとされ、特に九月九日の例祭には村外からも牧原出身者の参加があり、旧集落を懐かしむ。旧盆のエイサーもここで奉納した後に道ジュネーをする。(「牧原ガイドマップ」戦前球集落のすがた、チチェーンウタキ)

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