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1 戦時下の公務員の職務遂行

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 郵便局員

 沖縄県における近代郵便制度の施行は、明治七年三月二十日の首里、那覇、今帰仁の郵便仮役所の設置と浦添ほか八か所の郵便取扱所での業務開始に始まる。以来、郵便物の増加に伴い各地に取扱所が開設され、沖縄戦直前には普通局三、特定局九〇となっていた(『琉球郵政事業史』沖縄郵政管理事務所、昭和四十九年三月二十五日発行、一三〜一四頁参照)。昭和十九年からは守備軍の配備に伴い、「現地部隊の郵便や貯金などの取扱いをするほか、電気通信機械(予備電話機など)を提供して軍用通信の確保に協力し、防空通信(警報)伝達の役目も」果たし、「情勢が緊迫してからは、那覇局において憲兵による郵便物の検閲も行われた」(前掲書、一七頁)のであった。
 読谷山村内で郵便取り扱い業務が開始されたのは明治七年のことで、喜名村に「郵便取扱所」が開設された。『琉球の郵便物語』(金城康全著、一九九八年五月二十日発行)によると、「明治七年(一八七四年)五月七日の太政官布告第五十号によって郵便取扱所が設置され、駅逓寮地銘掛の資料には、読谷山間切(ヨンタンザマギリ)と仮名付けしてある」、「読谷山間切の当時の主邑は喜名となっており、当時郵便取扱所は喜名番所ですべてを処理していたようである」(一二五頁)と記されている。
 その後「読谷山郵便局」となり、明治三十七年九月に喜名から大湾に移った(なお、明治四十年三月からは電信事務が開始された)。それに伴って嘉手納にあった「郵便受取所」を喜名に移転させ「喜名郵便受取所」とした。『喜名誌』によると「当時は郵便局と言っても委託業務で、ほとんど自宅を局舎にしていたと言われている。大正十年生まれの比嘉さんによると、翁長※※が郵便局長時代、屋号『中喜名』の自宅を郵便局にしていたのを記憶しているというから、昭和のはじめ頃までは公の施設ではなく、逓信省から認可された個人営業のようなものであった」(一八二頁)という。その後再度「読谷山郵便局」に昇格し、昭和十一年二月からは電信事務も開始されている。
 村内には喜名のほかに渡慶次にも郵便取扱所が置かれており、前掲『琉球郵政事業史』の「終戦当時全琉各郵便局罹災状況調書」には、戦前局名・局長名・終戦当時の書類等の処理模様、の欄にそれぞれ「渡慶次・幸地※※・昭和二〇、三、二八の現金出納日報定額貯金原符…貯金申告の際予入者に交付した局長の辞令書全部、其他局舎と共に焼失」とある。
 渡慶次局は屋号樽国吉(タルークニシ)の一角に道に面して小さな局舎があった。昭和十五年五月二十五日の『大阪朝日新聞』には、「電信電話通話事務開始局」の見出しのもと「沖縄県伊波、宜野湾馬場両郵便局および渡慶次郵便取扱所はそれぞれ来る六月十五日より電信、電話通話事務を開始するむね熊本逓信局より発表があった」と報じている(『読谷村史』第二巻資料編1「戦前新聞集成」下、三三四頁)。その電話は米軍上陸直前に西の海を埋め尽くした艦船が米軍のものか日本軍のものかと、どこかに尋ねるために使われていた。「郵便局長の幸地※※、区長の玉城※※それに玉城※※の三氏が局へ行き電話で『下にいる艦船は敵か味方か』問い合わしたら向こうも『分らない』との返事、仕方なく引返す」(『渡慶次の歩み』渡慶次公民館、昭和四十六年発行、二五三頁)のであった。また、朝日新聞(昭和十七年十二月二十五日)には「熊本逓信局では去る百億円記念貯蓄強調運動週間中の優良局及び局長会に対しこのほど表彰状と賞金を贈った」として「中頭郡渡慶次郵便局」(前掲『読谷村史』、三六三頁)とある。
 昭和十三年から昭和十八年一月三日に防衛隊として球部隊に入隊するまで、嘉手納郵便局職員として配達人をしていた山内※※の聞き取り調査によると、勤務している頃の郵便物は、中支などの戦地からの便りが多く、いつ頃からか郵便物はすべて軍の検閲を受け、点検印が押されていたという。なかには召集令状もあった。移民地からの送金を配達したときには、食事をふるまってもらったこともあり、特に楚辺ではご馳走を作って待っていたと語った。
 当時、政府は戦争遂行のため戦費確保を意図して国民に貯金を奨励していたが、「奨励」とは名ばかりで実際は強制貯金で市町村ごとの割当額が設定されていた。昭和十九年四月二十六日の『沖縄毎日新聞』には、「米英撃滅の弾丸として郡民愛国の至誠をこめて送り出した十八年度中頭郡国民貯蓄額は、〈中略〉読谷山郵便局の二百四十パーセント九を筆頭に各郵便局とも百パーセントを突破している」(前掲『読谷村史』、四〇一頁)とあり、郵便局の果たした役割のもう一つの側面を示している。

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