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　史料にみる軍「慰安所」

　読谷山村内における「慰安所」設置の具体的な史料としては、要塞建築勤務第六中隊の陣中日誌の中にその一部を見ることができる。この要塞建築勤務第六中隊は、一九四四年（昭和十九）四月以降に伊江島に入った第五〇飛行場大隊とともに飛行場建設に携わるが、その後北飛行場建設のため読谷山村内に駐屯していた。なお、第五〇飛行場大隊が伊江島入りすると同時に、満州から朝鮮人「慰安婦」を帯同してきたとされている。
　「昭和十九年十二月分　陣中日誌　北飛行場五六飛大派遣　重信班」によると十二月二十四日から「軍人倶楽部内部改造」を始め同月二十六日には完了している。（「軍人倶楽部」とは慰安所のことである。）さらに、二十八日からは「五六飛大軍人倶楽部」と、「第四二七部隊軍人倶楽部」の改築、模様替えを行なったことが記され、設計略図も添付されている。この短い期間の陣中日誌だけからでも北飛行場付近に慰安所として三つの建物があったことがわかる。以下は原文である。（旧漢字は現代漢字に改めた）

十二月二十四日　出場人員　下士官一　兵三八　晴天　北飛行場
行動一、作業隊長ノ命ニ依リ重信伍長ハ兵三一名ヲ区署シ左ノ各作業ヲ実施セリ

（イ）宮田上等兵ハ兵九名ヲ指揮シ洞窟施設作業ヲ続行セリ　進度　洞窟枠嵌込ミ七ケ所完了
（ロ）荒武上等兵ハ兵二〇名ヲ指揮シ軍人倶楽部改築及木工雑作業ニ従事セリ　進度　軍人倶楽部内部改造三分通リ　トロッコ枠箱修理二二台完了　実働時間　各班共九時間
衛生　入院三　入室二
以下、関連する部分だけを抜粋する。

十二月二十五日
（ロ）荒武上等兵ハ兵二〇名ヲ指揮シ軍人倶楽部改築及鍛工場設置並ニ木工雑作業ニ従事セリ　進度　軍人倶楽部内部改造五分通リ□

十二月二十六日
（ロ）荒武上等兵ハ兵二〇名ヲ指揮シ第四二七部隊軍人倶楽部改築及鍛工場設置作業ニ従事セリ　進度　軍人倶楽部内部改造八分通リ□　鍛工場設置完了

十二月二十八日
（イ）宮田上等兵ハ兵一一名ヲ指揮シ軍人倶楽部内部改築作業ニ従事セリ　進度　五六飛大軍人倶楽部改築二分通リ□　第四二七部隊軍人倶楽部改築模様替ヘ完了

十二月三十一日
（イ）荒武上等兵ハ兵一三名ヲ指揮シ軍人倶楽部内部改築作業ニ従事セリ　進度　内部改築完了（別紙略図ノ通リ）

軍人倶楽部内部改築設計略図

　年が明けて昭和二十年に入ると一月三日、四日と空襲警報が発令され、「全員戦闘配置」などと続き、十二日になって「第五十六飛行場大隊軍人倶楽部内部改築ニ従事」とあり、十三日、十四日、十五日と続いて十六日に完成したことを記している。

　次に「昭和十九年十二月　内務規定　山第三四七五部隊」から附録第四「軍人倶楽部ニ関スル規定」を紹介しよう。慰安所の使用心得、軍の協力事項など全三一項目にわたって取決めが記されている。以下は原文である。（旧漢字は現代漢字に改めた）

軍人倶楽部ニ関スル規定

一	本規定ハ軍人倶楽部ニ関シ必要ナル事項ヲ規定ス
二	本規定ニ示サゞル事項ハ凡テ師団規定ニ拠ルモノトス
三	防備地区内軍人倶楽部ハ地方官民ニハ一切利用セシメザルモノトス又軍人軍属ハ地方慰安所ノ利用ヲ厳禁ス
四	防備地区内軍人倶楽部ニ関スル事項ハ防備隊長ニ於テ担任シ之ガ取締協力等ヲ行フモノトス
五	軍人倶楽部ノ配置利用部隊附表第一ノ如シ
六	軍人倶楽部ニ於テハ飲食宴会等実施セズ
七	軍人倶楽部ニ於ケル遊興税ハ免税トス
八	遊興費ハ一切現金払トシ貸借ヲ為スコトヲ禁ズ
九	業婦ノ検黴（けんばい）ノ実施ノ指令、軍医官ニ於テ毎旬一回之ヲ実施し、其結果ハ会報ヲ以テ一般ニ通報ス（検査日ハ通常毎月八日、十八日、二十八日トシ時刻ハ其ノ都度示ス）右検査ニハ憲兵立会ス
一〇	前條検査ニ依リ不合格トナリタルモノハ治癒スル迄接客ヲ禁ズ又受検セザルモノハ不合格ト見倣ス
一一	営業主ハ衛生施設ヲ完備シ戦力保持ニ遺憾ナカラシムルモノトス　之ガ為部隊長ハ必要ニ応ジ衛生検査ヲ実施スルト共ニ所要ノ協力ヲ為スモノモノ（ママ）トス
一二	罹病慰安婦ノ施療ハ地方医ニ依託シ之ガ負担ハ営業主トス
一三	営業主以下ノ居住ニ関シテハ警察及村役場ノ指示ニ従フベキモ部隊ト関係アル事項ハ直接交渉スルコトナク部隊副官ニ一応連絡シタル後実施スルモノトス
一四	軍人倶楽部ノ建物及家作借上料等ハ凡テ営業主側ノ負担トスルモ所要に広ジ部隊ニ於テ協力スルモノトス
一五	軍人倶楽部ノ使用料金左ノ如シ 区分 将校 下士官・軍属 兵 摘要 時間 〇、四〇 〇、四〇 〇、四〇 　 料金 三、〇〇 二、五〇 二、〇〇
一六	営業時間ハ毎日十二時ヨリ二十四時迄トシ泊込ハ一般ニ之ヲ禁ズ　但シ毎月八日ハ休業日トス
一七	下士官以下倶楽部ヲ使用スル者ハ規定ニ示ス許可証ヲ所持スルモノトス
一八	将校以下ノ倶楽部使用時間左ノ如シ 　　兵　十二時ヨリ十七時迄 　　下士官　十七時ヨリ二十時迄 　　将校　二十時ヨリ二十四時迄
一九	下士官以上ハ兵ノ使用時間内ニ倶楽部ヲ使用シ得ズ
二〇	倶楽部使用許可証・様式及配当区分附表第一ノ如シ
二一	倶楽部使用許可証ノ保管及取扱ハ外出証ニ準ズ
二二	倶楽部ノ使用ハ先着順トシ兵ハ営業主ニ許可証ヲ提示シ料金ヲ支払ヒタル後使用スルモノトス
二三	営業主ハ一般外出帰営時刻迫接スルカ又ハ外出（使用）時限外ニ使用セントスル者アル場合ハ之ヲ拒絶スルモノトス
二四	営業主ハ防諜ニ関シ其ノ責任ニ任ズルモノトス
二五	一般ニ倶楽部内ニ於テ軍事ニ関スル談話為スヲ禁ズ
二六	営業主、暴利ヲ貧リ或ハ軍人ヲシテ軍紀ヲ犯サシムル助成行為等ナキ様留意スルコト
二七	状況ニ依リ使用者ノ数ヲ制限スルコトアリ
二八	営業主ニシテ本規定ニ違反シ軍部ニ協力スルノ誠意ヲ認メラレザルモノハ契約ヲ解キ且営業所ヲ閉鎖セシム
二九	倶楽部ニ関スル業務ヲ附表第二ノ如ク分担ス
三〇	所要ニ応ジ倶楽部ノ運営其ノ他ニ関シ業務会報ヲ行ヒ之ガ改善向上ニ努ムルモノトス　日時及集合範囲ハ其都度示ス
三一	営業ノ各人、売上ゲヲ明記セル帳簿ヲ備付ケ適時検印ヲ受領シ置クモノトス

附則

第一、軍紀風紀ノ維持及取締ニ関スル件

（使用者）
一	一般ニ営業婦ノ供有観念ヲ徹底シ占有観念ヲ厳禁ス
二	使用者ハ軍人タルノ衿持ヲ保チ倶楽部附近ヲ徘徊シ地方住民ノ尊敬信頼感ヲ失墜スルガ如キ行動ヲ禁ズ　凡テ柵内又ハ控所ニアリテ待機スルモノトス
三	使用者ハ倶楽部ニ於テ暴言大呼シ又ハ高声放歌等ヲ厳ニ慎ムベシ
四	備付ケ物品ハ特ニ丁寧ニ取扱ヒ破損亡失又ハ故意ニ持去ル等ノ行為アルベカラズ
五	使用者ハ営業主ノ指示ニ従フモノトス
六	使用者ハ必ズ衛生サックヲ使用シ罹病ヲ予防スルモノトス万一使用セズ罹病セル場合ハ処罰ス
七	業婦ノ取扱ヒニ不満ヲイダキ暴力ヲ振フ等ノ行為アルベカラズ
八	使用後ハ徒ラニ附近ニ滞留スルコトナク速カニ退去スルモノトス
九	一般ニ業婦ト柵外ニ出デ談話シ又ハ散歩等ヲ行フヲ禁ズ
一〇	其他一般ニ迷惑スル一切ノ行為ヲ厳禁ス　若シ軍ヲ紊リ規定ニ悖ル行為アリタル場合ハ其ノ隊ノ外出ヲ禁止ス
（営業者）
一	営業主以下ハ誠意ヲ以テ明朗ナル営業ヲ営ムモノトス
二	諸設備ヲ完備シ罹病伝染ノ根源ヲ絶無ナラシムルモノトス
三	業婦ハヨク使用者ノ立場ヲ理解シ何人ニモ公平ヲ第一トシ使用者ヲシテ最大ノ御奉公ヲ為サシムルコトヲ念願シ如何ナル事情ニ依ルモ身ヲ誤ラシメ御奉公ヲ欠カシムルガ如キコト絶体（ママ）ナキ様万事細心ノ注意ヲ以テ取扱フモノトス
四	営業婦ハ紊リニ柵外ヲ散歩シ幕舎又ハ作業場等ニ立入ルヲ禁ズ
五	病気ノ為休業中ノ者ハ部屋入口ニ赤札ヲ掲ゲ置クモノトス

第二、営業主ノ営業並ニ部隊ノ協力ニ関スル事項
　営業ニ関スル事項ハ本規定ニ示ス如ク営業主側ニ於テ其ノ一切ヲ自力ニ依ルヲ本則トスルモ実情之ヲ許サゞル事項ニツキ部隊長ニ於テ所要ノ協力ヲ為ス

一	建物ノ借上使用等ハ営業主ニ於テ警察官ヲ介シ所有者ト直接交渉スベキモ必要ニ広ジ部隊ノ業務関係者之ニ協力スルモノトス
二	修理其他改修ヲ要スル場合ハ其ノ資材及労力等他ニ求メ得ザル場合ニ限リ営業主ノ申告ニ依リ部隊長之ヲ援助ス
三	前項ノ材料ハ営業主ニ於テ後日調弁ノ上之ヲ返済スルモノトス
四	営業婦ノ給養上配給ノ円滑ヲ欠キ又ハ必需品ノ入手困難ナルカ或ハ又其ノ量極メテ少量ノ為健康ノ保持至難ト認ムル場合ニ限リ部隊長ハ所要ノ協力ヲ与フ
五	営業主以下ノ健康診断及業婦ノ検黴日時等附表第三ノ如シ
六	其ノ他臨時診断ヲ要スル場合ハ受診ノ手続トリ受診スルモノトス
七	営業主ハ附表第四ノ様式ニ依リ受検名簿及受診名簿ヲ備付ケ置クモノトス
八	営業主ハ部隊業務関係者ト協議ノ上部隊長ノ許可ヲ受ケ囲碁将棋其ノ他ノ娯楽施設ヲ設ケルモノトス

第三、本規定ハ十二月二十日ヨリ施行ス
　（財団法人沖縄県文化振興会公文書管理部・ 史料編集室蔵）

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