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○池原※※（大正九年生）
池原※※（昭和四年生）
渡航
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徴兵保険料領収書
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父※※が、昭和六年に単身で南洋に渡り、その翌年に母と三人の子供たちを呼び寄せた。その時、※※は小学校四年生だった。妻の※※は、昭和九年、五歳の時に渡航した。
戦争が始まるまで※※が住んでいた所は、テニアン島マルポ二班四七番地であった。マルポは九つの班で構成されており、一つの班には二四、五世帯あった。※※が住んでいるあたりには沖縄出身者が多かった。その他には、八丈島、福島県、山形県の人がいた。マルポ二班には本土出身者は四世帯程であった。
農業
小作人は南洋興発から土地を一八、〇〇〇坪借り受けてサトウキビを栽培し、その収穫高に応じた給料を会社から貰って生活していた。当時、池原の家族には父と母と※※の三人の働き手がいて、月に五〇円の収入があった。サトウキビの収穫期には、班全員で各世帯の畑での収穫を手伝った。その場合、さとうきびの運搬の労働に対する給金を貰った。
土地が肥えていて何を植えても不作ということはなかった。肥料を入れずに野菜もサトウキビもよくできた。さとうきびを収穫した後同じ場所に株を植えるとすぐに育った。スイカなどは、食べた後に種をそこらへんに播いておくと足の踏み場もないほどできた。ピーナッツは一株で一坪くらい広がった。芋などは手で引くとすぐ抜けた。
農作業は、自分の畑での作業なので出たいときに出ればよかった。天気のいい時は遊んで、雨が降ると仕事をした。晴れの日は暑いし、雨の日にはサトウキビの葉っぱが落ちやすくなるからである。にわとりをたくさん放し飼いしていた。時には、サトウキビ畑の中に卵を産んで、ひなをたくさん連れて帰ってきたりしていた。
小作人の他に人夫として農作業をする人がいた。人夫は南洋興発に雇われているか、小作人に雇われているかのどちらかだった。小作人は人夫小屋を作り、それを無料で人夫に貸した。人夫の賃金は一日一円二〇銭だった。人夫として働いて会社から信用を得ると一町歩（三、〇〇〇坪）を借り受けて準小作になることができる。しかし、朝鮮人の人夫は準小作になることはできなかった。さらに、信用が高まり、班長の信用を得ると、第二農場（マルポ）の主任（南洋興発社員）と交渉して小作（一八、〇〇〇坪）となることができた。マルポでは小作と人夫では小作のほうが多かった。※※は、マルポ六班で一町歩譲り受けて準小作になり、その二、三年後、二班に移って小作となった。準小作の家は会社が用意した借家に住み、小作は自分の持ち家を持つことができた。
テニアンでのくらし
南洋興発が経営している「しほう」という雑貨・食料品店があり、そこで食料品を一か月分買った。そうめん、味噌、油などを大量に買い込むため、買い物するときは牛車を使った。支払いは、さとうきび収穫代の中からまとめて支払った。
ソンソンの町には娯楽施設が多くあり、よく自転車で映画や芝居を見に行った。家から町までは、三�劼阿蕕い竜�離だった。年配の人たちが町に行く時には牛車を使った。町の中を出歩いている間は、近くの山に牛を繋いだ。町には「料理屋」がたくさんあった。「料理屋」とは娼婦宿のことである。出稼ぎ者がたくさんいてその中には独身者も多くいたので、娼婦宿がたくさんあった。
テニアンには、ソンソン（第一農場）、マルポ（第二農場）、カーヒー（第三農場）、ハゴイ（第四農場）のそれぞれの地域に四つの国民学校があった。※※はソンソンの国民学校に通っており、※※はマルポの国民学校に通っていた。ある日、※※はマルポの国民学校に遠足に行った時、※※たちマルポの国民学校の生徒にいじめられたことがあった。※※はとてもウーマクーだったと※※は言う。
また、テニアンにはソンソン、カーヒー、ハゴイの三か所に日本軍の飛行場があった。テニアン在住の日本人、朝鮮人は勤労奉仕で飛行場作りをした。
戦前、各班に警防団が組織されていた。戦争中は、その警防団が在郷軍人と共に演習や訓練をした。※※はノゼキ隊に勤務し、二か月くらい生活を共にした。※※の仕事は電話番であった。※※は少尉の階級だった。
戦争の始まり
ある日、日本軍が演習をするというので学校が早く終わった。飛行機が飛んでいるのをみて「日本軍の演習だ、バンザイ、バンザイ」などと騒いでいると、本当に爆弾が落ちてきた。※※は目の前で空中戦をやっているのを見たが、ものすごかった。
米軍は最初ソンソンの近くの海に軍艦を集結させた。それで日本軍がソンソンに集結した後、反対側のハゴイから上陸した。
戦闘状況
米軍は夜間に攻撃をしなかった。だから、戦争が始まった当初、※※たちはマルポ二班の自宅で寝泊まりして昼間は山に避難していた。上陸した後でも、米軍は昼間のうちにある所まで進み、五時になると後方の陣地に戻った。翌朝、前日進んだ所まで来て、敵がいないのを確認してそこで陣地を作った。そのようにして米軍はテニアン島全体を攻略していった。
テニアンから一里ほど離れたサイパンを占領した米軍は、サイパンからテニアンに向けて砲撃を加え、飛行機から爆弾を落とし、艦砲射撃を行なうといった具合に徹底的に攻撃した。テニアン島は一坪に一発の爆弾が落とされたといわれる。サイパンとテニアンの周りの海上は米軍の艦船がぐるりと取り巻いていた。米軍の艦船から日本の歌が聞こえてきたり、また、艦砲射撃をするときには「何時何分に攻撃するから、民間人は避難しなさい」という放送もあった。
避難
米軍が上陸したと聞いて、※※たちはマルポ九班の山の壕に避難した。テニアンには海岸沿いに山があり内陸部はほとんど平地である。人が戦火を逃れて避難できるのは海岸沿いの山しかなかった。しかし、その山も海からの艦砲射撃が激しくて、岩盤の丈夫な壕に避難した人は助かったが、多くの人が亡くなっている。山の木には葉っぱがほとんどなくなって枯れ木みたいになっていた。※※が壕から外に出たとき、山がすっかりうちひしがれていてびっくりした。※※と一緒に避難していた人は全員無事だった。
マルポにいた※※たちと行動を共にしていた高射砲部隊の四十代前半の中隊長は、カロレナス守備の日本軍が玉砕したことを知っていて、あるとき「兵隊と一緒に避難するな。反対側に避難しなさい。米兵は民間人は殺さないから、もし僕らがこの戦争に負けたら、君らの子供たちに仇を打たせてくれ」と言った。
避難中に困ったのは水がないことだった。水源地は一か所しかなくて雨水を生活用水として使っている状態だったので、避難中は特に水がなくて困った。水を汲みに行く途中に被弾して亡くなった人もいた。食べ物に困ったということはなかった。
収容所
軍人の捕虜収容所は、第四農場（ハゴイ）にあり、民間人を収容するための収容所が第三農場（カーヒー）にあった。※※と※※はカーヒーの収容所で結婚し、約二年間過ごした。収容所では、トタン屋根の長屋一棟に一〇〇人以上が住んでいた。
収容所に入るとき、兵隊と民間人を見分けるための検査を受けた。当時、民間人に成りすました兵隊が多くいた。シュナイダー大尉という検査官がいて、日本人を並ばせて日本語で「回れ右」とか「前へ進め」とか号令をかけた。日本人の動作を見て、訓練を受けた兵隊か民間人なのかを見分けようとしていたのである。※※は二か月間兵隊と行動を共にしたことがあったので、動作が機敏であり最初兵隊ではないかと疑われた。※※は、こんなにたくさんの家族の面倒をみなければならない立場にあるので兵隊であるわけがないと主張して、結局民間人用のカーヒーの収容所に入れられた。
収容所では、門番、米兵の衣類の洗濯、さとうきび・芋・野菜などを作っている農園などで仕事があった。一日の賃金は三五セントだった。そのお金で収容所内のＰＸでタバコや服を買ったりして使った。※※はしばらく「ポリス」をしていた。「ポリス」とは収容所のゲートの門番であり、出入りする収容者を取り締まることが主な仕事だった。※※は志願して「ポリス」になった。「ポリス」には沖縄出身者が多かった。知り合いが野菜や芋を取りに行くために収容所の外に出るのを見逃してやった。
※※は、しばらく「ポリス」を勤めた後、その仕事をやめたいと申し出た。すると 「何が不満なのか、待遇が悪いのか」などと聞かれた。※※は米軍に不満があるのではなく、腕力がなくて取り締まる自信がないのだと言った。その後洗濯場に移った。洗濯場では班長を勤めた。
※※は、年を偽ってトマト農園に働きに出た。トマトを収穫するとき、わざと赤いトマトを摘み取らずに残した。山で逃走している日本兵のためだった。摘み残したトマトが翌日なくなっているのを見ると、「やっぱりこの近くに日本兵がいるんだねー」と思った。トマトの摘み残しを米兵に見つかって叱られたこともあった。
食事は、おにぎりなどが一日三回配給された。食べ物には困らなかった。宿舎での食事よりも作業場に出たときに配給される食事は特によかった。※※は作業場で貰った食事を妹たちのためにこっそり持ち帰った。
収容所では、朝鮮人の待遇がよかった。その次に沖縄出身者の待遇がよく、本土の人の待遇が一番悪かった。しかし、しばらくすると、朝鮮人がよく盗みをするので、沖縄出身者の待遇が最もよくなった。待遇がよかったというのは、例えば、住む家の違いがあった。
引揚げ
戦局が悪化するとともに、「えらい人たち」はいち早く本土に引揚げた。彼らが乗り込んだ船の多くが撃沈された。※※たちは、戦後アメリカの船に乗って沖縄へ引揚げた。沖縄までは三、四日かかった。インヌミヤードゥイに一週間くらいいて、それから親戚を頼って石川に行き二年程過ごした。古堅の大部分が戦後しばらく米軍用地だったので元の家には帰れず、大木に二、三年いた。その後やっと古堅に帰ってきた。しかし、戦前の元の家に帰ってきたわけではなかった。戦前の※※の家のある辺りは軍用地になっていたのである。
沖縄に帰ってからは、食べ物に不自由した。実家の母から少し米をもらって、そこらへんの野草を入れて雑炊を作って食べた。しばらくすると、すこし米の配給があったが、全然足りなかった。
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