読谷村史　「戦時記録」上巻　第二章　読谷山村民の戦争体験　第五節　海外での戦争体験

　先ず私達が南洋に渡航致しました理由を申し上げませう。昭和の初期の我が国は経済困難苦しくて世界の国から馬鹿にされ、日本人は排斥で海外出稼ぎもストップで、輸入物資もストップで之では国が滅びると国民が立ち上がり満州事変を引起こし、我が国は戦に負ける事知らず満州より支那事変と大東亜戦争に発展したのであります。
　昭和十三年読谷より五名の方々が南洋パラオに移民して行きました。当時は南洋パラオに行くにも十五日間の船の旅であり今日の如く飛行機の旅ではありません。パラオに着くと港もなく沖に着いてポンポン船でコロール波止場に行き、パラオ交通のバスで町の中を通りました。
　町に行くと、パラオ支庁、南洋庁、新聞社が立並びパラオ公園とパラオ病院から商店街本通りは一本道で、一〇㎞程あり裏通りは華街で料亭があり商店があり島民の公学校とあり、コロール町と言っても読谷の楚辺から伊良皆程の街でありました。
　私は海外に出て学問というのが大切だと思い叔父様達に相談して新聞社に入社、十三年より十六年迄働き大東亜戦争の初期頃新聞社の仕事は健康に害して退社致し、六ヶ月頃病院を通いもとの健康になりましたので友人に頼んで建設業に働く事になりました。パラオに於いて読谷村の先輩の方々により金を貯えたら財産を買いなさいと言われ、成る程と思い読谷村の方々は土地を求め家を造り毎日を楽しく暮して居りました。
　読谷村人会当間※※さん（渡慶次）が会長、宇良※※さん（喜名）が副会長、会計書記が山内※※で運営し県人会の行事とかにも読谷村の名を挙げて参加したのであります。
　大東亜戦争が始まり南洋にも戦時態勢の波が押寄せて参り、物資の配給等在郷軍人の組織訓練等があり昭和十九年にはサイパン島が玉砕。アッツ島の山崎部隊の玉砕でパラオにも上陸するとの話までありました。十九年の八月頃に現地召集で男は現地の防衛隊で、女子供はコロール町はあぶないとの事で本島のジャングルの中に疎開したのであります。
　山の中での生活は土地を耕し芋を作り、芋の葉、芋を炊いて食べ、又ビンロー樹の芯、ヤシの芯、ヒグの芯、カタツムリ、トカゲ、キノコ、生き物、木の葉等を毎日の食事にして生きのびたが、食べ物の関係で健康は良くなく何時死ぬかもしれないとの事を思い、ただ暮す毎日であり兵隊も食糧が少なく元気がない。夕食を済ませて寝て朝起きると其のまま死んで居りました。
　私は司令部の管轄に配属で司令部の炊事に沖縄の先輩の上等兵が居りましたので、いろいろとお世話になり腹を空かした事はありませんでした。
　毎日のニュースは沖縄戦の事で、沖縄の玉砕のニュースの時は涙を流し故郷の親兄弟妻子の事を思い途方にくれて何もやりたくないのでありました。天皇陛下が、マッカーサー元帥のポツダム宣言の受諾をうながしても日本は本土決戦に備えて戦ふ事で受け入れず、其の結果は広島長崎に原爆投下で人命や財産の損害が大きく、其のまま戦ふと日本に原爆を全土に投下され、ただ日本人は皆死んでしまふとの御考えでラジオを通じ全世界にポツダム宣言の受諾で無条件降伏を受けたので、其の時の国民の胸中に今迄の日本軍を信頼し数多の戦果を喜んでいた突然の発表で戦友同志の涙は止めどもありません。

日輪仰ぐ皇軍が　大空駆けり海渡り
建てた戦果の数々も　夢だ涙だがっちり組んで
今日の悲憤を耐え抜くぞ
戦はすでに終わったけれど　武器無き戦はこれからだ
我等国民しっかり手をつなぎ
日本の再建に立ち上ろう

　それから十月になり現地の兵隊は皆んな解除になりました。戦が終ったら戦時用の食糧が出回り食事も腹いっぱい食べました。
　沖縄に帰る様になり第一回の帰国が昭和二十一年二月で帰る時も喜ばしい気持ちになれず、沖縄の玉砕の事島には親兄弟も誰も居ないだろう。又異国の地に眠る戦友の事を思い戦友の墓標に向かい、許せ戦友此の我達をきっと一念堪抜くぞ。言葉に出さないけど胸の内は戦友の面影で涙して居た。
　二十一年二月十八日に沖縄に着きました。案外沖縄は親兄弟親戚の方々に村長さん等が出迎えてびっくりしました。
　村長さんの「皆さん御苦労さん」の御言葉。何の返事の言葉も出ませんでした。其の状況は今も忘れる事は出来ません。
　パラオは働いて求めた財産土地家も其のまま放って帰り、沖縄に帰ったら海外引揚者協会で海外財産の保証獲得で頑張ったが、唯一回十万円の国債を受け取っただけで何もありません。
　想ふに戦争とは一国の苦しい国を全世界の助合ふ事で平和はあるので、自国が豊かであれば他国は見ぬ振りでは平和はありません。

　一九九九年七月十二日
　　山内※※寄稿