第四節 「読谷村戦没者名簿」からみた戦没状況


<-前頁 次頁->

四 軍人と一般住民

 「読谷村戦没者名簿」より一般住民と軍人を区別して統計をとると、おおよそ〔表24〕のようになる。戦闘参加の記述がない一般住民は一六七五人にのぼる。これに「戦闘参加」の記述があるもの八九人、「準軍属」(ほぼすべてに「戦闘参加」の記述も併記されている)の記述があるもの四二〇人を加えれば、一般住民の数は二一八四人になる。次に「軍属」の記述があるものは四〇五人。また「防衛隊」の記述があるものは二七一人。さらに「学徒隊」の記述があるものが二一人いるが、これも防衛隊に加えれば防衛隊は二九二人となる。以上のどちらにも属さない陸軍・海軍の軍人が九一四人になる。これに基づいて、〔表24〕から〔表25〕を作成した。
 〔表25〕をもとにして、「読谷村戦没者名簿」に記載された戦没者三九二四人の一般住民と軍人の割合を示したものが〔図8〕である。前述したように「戦闘参加者」「準軍属」「軍属」「防衛隊」「学徒隊」の存在を考えたときに、一般住民と軍人の区別は明確なものではなく、むしろ区別できないという点に沖縄戦の特徴があることを強く感じる。
一般住民と軍人(1)〔表24〕             一般住民と軍人(2)〔表25〕

画像
 防衛隊は、一九四二年(昭和十七)に公布された「陸軍防衛召集規則」に基づいて召集され、本来は在郷軍人を臨時に兵籍に編入したものだった。これが一九四四年(昭和十九)十月に改正されて沖縄戦に適用され、満十七歳以上満四十五歳未満の男子が該当した。その総数は約二万五〇〇〇人に達するという。沖縄守備軍(第三十二軍)は二次にわたって防衛隊を召集した。第一次は一九四四年十月〜十二月(主として飛行場建設工事に従事させた)、第二次は一九四五年一月〜三月(武部隊を台湾に転用配備した後の兵力の補充)にいたる。第二次の防衛召集は根こそぎ動員の観があり、十七歳未満、四十五歳以上の者や身体障害者なども強制的に入隊させられ、なかには十三歳や七十五歳の防衛召集兵もいたという。防衛召集兵の主たる任務は陣地構築や弾薬運搬などの役務であって、戦闘訓練も受けず武器の供与もなかったが、沖縄戦の末期においては第一線兵の欠員補充にもあてられ、武器を持って戦闘に参加させた部隊もあったという。さらに中等学校の男女生徒、青年学校の男女生徒まで動員したのがいわゆる「鉄血勤皇隊」や「ひめゆり学徒隊」で知られる学徒隊で、県下すべての中学校、女学校から従軍した。その数は二〇〇〇名以上になるが、青年学校生の義勇隊の数はいまだ不明であるという(以上大城将保著『沖縄戦』高文研、および『沖縄大百科事典』沖縄タイムス社を参照した)。
〔図8〕 〔表25〕より作成

画像
 また米海兵隊の沖縄戦記は、上陸後得た情報によって次のような事実をつかんでいたことを記している。「中部勝連方面に進撃した第一海兵師団の入手した情報は、極めて重要だった。それは、一九四四年十月十日の那覇大空襲以後、日本軍による住民の徴兵が実施され、十七歳から四十五歳までの男子が正規兵、特殊技能兵(健児隊)、労務兵(防衛隊)に編成されたというもの」だった。住民のなかに敵にまわる大規模な要素が存在したことを重大な脅威とみた米海兵隊は、その対策として、身体壮健なる十五歳から四十五歳までの住民男子を捕虜として扱い、徹底的に身許調査をした。陸軍のCIC(対敵情報活動部)も調査を支援し、特別に訓練した住民を各地に配置して情報収集にあたらせたという。
 「戦闘参加者」に関しては、現在厚生省が公認している戦闘参加者の資格(援護関係)は次の二十項目に及んでいるという(前掲大城将保著『沖縄戦』より)。
 県援護課がまとめた沖縄戦戦死者の推定数を参照して、大城将保は次のように述べている。「このうち、「戦闘参加者」とは援護法の適用を受けた一般住民、「一般住民」は受けていない住民の推定数のことで、内容は全く同じ住民である。この両者をあわせると九万四〇〇〇名となり、さらに「沖縄出身軍人軍属」の中には防衛隊や学徒隊、男女義勇隊も含まれるので、実質的には正規軍人と区別しなければならない。」(前掲書)
 「読谷村戦没者名簿」からみた戦没者の一般住民と軍人の割合をみても、沖縄戦で戦争の犠牲となった一般住民(全体の五七%)がいかに多いかということがわかる。また「防衛隊」「軍属」(軍属には炊事婦等の「雇員」も含まれる)「学徒隊」「戦闘参加者」等の割合の高さを考えれば、沖縄戦が多くの住民を巻き込んだ戦争だったということを改めて考えさせられる。
義勇隊
直接戦闘
弾薬・食糧・患者等の輸送
陣地構築
炊事、救護等雑役
食糧供出
四散部隊への協力
壕の提供
職域による協力
区村長としての協力
海上脱出者のクリ舟輸送
特殊技術者
馬糧蒐集
飛行場破壊
集団自決
道案内
遊撃戦協力
スパイ嫌疑による斬殺
漁労勤務
勤労奉仕作業
沖縄戦戦死者の推定数(県援護課まとめ)
本土出身兵 6万5908名
沖縄出身軍人軍属 2万8228名
戦闘参加者 5万5246名
一般住民 3万8754名
米軍 1万2520名
<-前頁 次頁->