第五節 読谷村「戦災実態調査」の分析
豊田純志


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はじめに

 沖縄県では、一九九三年から翌年にかけて「平和の礎」刻銘のための戦没者全県調査が実施された。それまで「援護法」の適用を受けない一般住民の戦没者数は具体的に把握されておらず、それゆえにこの調査は「援護法」の補償とは全く関係ないことを強調しなければならなかったという(『こーぷらいふNo.104 特集OKINAWA』参照)。
 読谷村では、一九八八年から住民の戦争体験の本格的な聞き取り調査が始まった。一九八八年一月二十一日に『読谷村史・戦争編』の第一回専門部会が開かれ、翌一九八九年二月に開かれた第三回専門部会で「戦災実態調査・悉皆調査」の具体的な方針が検討されている。それは、昭和十九年当時の読谷山村の全字・全戸(約三一五〇戸)についての悉皆調査を行い、戦争体験者の生の声を記録し、戦争の実態を明らかにしようとするものであった。
 当時の担当職員は、一九九四年発行の『平和の炎(第七集)』(読谷村役場発行)で次のように記している。
 「県の調査が戦没者名を中心にするのに対して、読谷村の戦災実態調査は当時の家族の氏名・生年月日・生存や戦死状況・避難状況・部隊配置状況・収容所からの帰村状況など多岐にわたる調査です。その調査を進めていけば、戦没者数が出てくるということで、読谷村では独自の方法で戦災実態調査を推進することにしました。」
 一九八九年六月付の「スケジュール表」によれば、同年四月から一九九一年七月までに全二二字の調査を終了する予定であったが、その後一九九二年十一月付の「調査状況」では、調査終了三字、現在調査中六字、未調査一三字にとどまっており、この種の調査の困難さがうかがわれる。
 調査が難航しているときに、前述した「平和の礎」刻銘の戦没者全県調査が開始された。再び当時の担当職員の記述を引用したい。
 「『平和の礎』の調査が行われるということが、マスコミその他で伝えられたことにより、調査の困難さのために停滞しがちだった読谷村の戦災実態調査にはずみがつきました。一九九三年十二月から一九九四年一月にかけて多くの字で調査が開始され、三月までの短期間に千数百戸、それ以前の調査を含めると全体の八割近くが終了しました。(途中省略)戦災実態調査は、読谷村教育委員会が調査・作成した戦前の字ごとの戸主名・屋号等一覧と民俗地図を基に行いました。各字とも字をあげての協力態勢をとってくれたこと、戦争体験世代・戦後世代含めて字の方々が調査を行ったことが大きな原動力となり、悉皆調査を行うことができました。調査員数は二一五人、年齢は二十四歳から七十七歳までと幅広い年齢層の方々が協力してくださいました。」(同書)
読谷村での戦災実態調査から
楚辺1989年4月29日
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渡具知1993年6月10日
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長田1993年12月22日
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波平1994年1月31日
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高志保1994年5月19日
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 「戦災実態調査」は、全村あげての協力態勢によって推進されたことがうかがえるが、その後も継続して補足調査が行われている。ただしこの時点で、戦没者数の把握に関してはまとまった報告がなされており、一九九四年時点で把握していた戦没者数は三〇七一人、その後追加記載があり、二〇〇二年三月現在で三九二四人となっている。
 『読谷村史 戦時記録上巻』出版の予定に合わせて(二〇〇二年三月発刊済み)、「戦災実態調査」のデータはすべてコンピュータへ入力してデータベース化した(入力は一部委託)。データベースの調査項目一覧に関しては本稿末「参考資料1」を参照されたい。
 「戦災実態調査」に収録された総人数は一万九一三三人、その内訳は生存一万四一五九人、死亡三九六八人、生存死亡欄が空欄となっている「不明」は一〇〇六人であった。なお「戦災実態調査」の死亡欄には、戦災とは関係ない死亡者をさすと思われる「対象外」という記載が少数含まれるから、平和の礎刻名時に作成された「読谷村戦没者名簿」の死亡者数よりも少し多くなっている。
 また「戦災実態調査」の項目「家族番号」から割り出した「家族数」は三七〇九家族であるが、その際、枝番号になっているものも一家族として数えたため、必ずしも実際の世帯数、あるいは戸数とは一致しない(表―1〔戦災実態調査・総数〕参照)。
戦災実態調査・総数 表−1
総人数 19,133
内訳 生存者 14,159
死亡者 3,968
不明 1,006
家族数 3,709
*「戦災実態調査」の死亡者数は、平和の礎刻名のために作成された「読谷村戦没者名簿」の死亡者数より少し多い。
 全体の八二%にあたる一万五六五六人は「調査済み」、残り一八%の三四七七人に関しては、実際の聞き取りができなかったことを示す「未調査」という記載がある。「未調査」分には、「平和の礎」や「遺族台帳」など他の資料から判明した分を追加記入したものが含まれる。
 「戦災実態調査」を字別に集計したものが表―2〔戦災実態調査・字別人数〕である。
戦災実態調査・字別人数 表−2

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