読谷村しまくとぅば「むんがたい」

瀬名波ガーの話 しなはがーのはなし

話者 屋良朝助(1907・M40) 地域 瀬名波 時間 02:00
  • しまくとぅば
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 (ぅんかし)よー、七月(ななちき)(はー)てぃ、うりから七月(ななちき)(あみ)()たんでぃ。うれー、今度(くんどぅ)丁度(ちょーる)よ、(まん)七十二(ななじゅうに)(ねん)、やー。今度(くんどぅ)七十三(しちじゅーさん)しみそーちゃる(ちゅ)(ぅん)まりたぬ(とぅし)、うぬ被害(ひがい)でぃーしぇー。


 とーうぬ(ばー)ぬやー、辰年(たちどぅし)被害(ひがい)されー、(あみ)たぼりーさしぇー、うりから(ぬぶ)てぃ(っち)ぬ、川平(かーびら)(いー)でぃち。川平(かーびら)でぃぬ屋取(やーどぅい)()んよー、其処(ぅんま)んかい。うれーやー、瀬名波(しなは)ガーぬカーぬ(ひら)(いー)やぐとぅやー、うぬ()()川平(かーびら)やしがやー。


 うぬ(ばー)其処(ぅんま)んかい、あぬーモーぬ()んよー。うぬモーとーてぃ村中(むらじゅう)(ぅん)じてぃぬ(あみ)たぼり、雨乞(あまぐ)い、し、やー。あんし、(やま)かい()ちゃーん、渡慶次(とぅきし)儀間(じーま)(ちゅ)(やま)かい()ちゃーやしがやー、(ちゅー)るうっさんかい全部(むる)(みじ)ぇくんちゃきてぃ、(あみ)たぼりさっぬ、うぬカーぬ名所(めいさん)でぃーしぇー瀬名波(せなは)ガー。


 やしがやー、うんにーに(みじ)ぇ、井戸(いろ)此処(くま)ねー(ねー)らん、瀬名波(てぃなは)ガーから(みじ)()りやー。(あさ)(くら)さいに(なら)()り、やー。(また)()さんでぃんまた(なら)()りやー。あんさーに、くぬ(あざ)びかーじぇーあらん、渡慶次(とぅきし)儀間(じーま)全部(むる)ありっちー(みじ)()らしがよー。有名(ゆうめい)なうぬカーでぃーしぇー瀬名波(せなは)ガー。



 うりとぅ、なー(てぃー)ちぇー、瀬名波(せなは)ガーに(うた)()しがやー。瀬名波(しなは)ガーでぃぬカーや(いわ)から()ちゅん、(いわ)から(みじ)()ちゅぐとぅやー、『瀬名波(しなは)ガぬ(みじ)(いわ)からる()ちゅる 瀬名波(しなは)二才達(にしぇた)言葉(くとぅば)(ぐふぁ)さ』(いし)から()ちゅぐとぅ、言葉(くとぅば)(くふぁ)さん。やしが、言葉(くとぅば)(くふぁ)さしが、(こころ)(まこと)、うん。

 昔ね、七か月干上がって、それから七か月雨が降ったんだって。それは、今年でちょうど満七十二年だよね。今年七十三歳のお祝いをした方が生まれた年なんだよ、その被害があったのは。


 その辰年の旱魃(かんばつ)時に、雨乞いをした場所は、瀬名波ガーから上ってきた所だった。そこには川平という屋取があるよ。そこはね、瀬名波ガー(湧泉)の(ひら)の上なので川平(かーびら)と名がついたわけだがね。



 また、そこには野原があってね。その野原に字民が集まって雨乞いをしたんだ。そして、山へ行く者、そこを通る渡慶次や儀間の人たちにも、皆に瀬名波ガーから汲んできた水をかけて、雨乞いをした湧泉といえば瀬名波ガーのことだよ。


 その頃は、字には井戸がなく、瀬名波ガーから水を汲んで使っていたんだよ。朝もまだ明けない暗いうちに並んで汲んでね、また夕方も並んで汲んでいたんだ。それは、瀬名波だけじゃなく、渡慶次や儀間の人たちもそこに来て水を汲んだわけさ。瀬名波ガーというのは有名だよ。


 それと、もうひとつ。『瀬名波ガーの水は岩から湧きでている 瀬名波の若者たちは言葉が荒い』という瀬名波ガーの歌があるんだがね。岩から湧いている瀬名波ガーの水を飲んでいるから、瀬名波の若者たちの言葉は荒いが、心根は優しいんだよ。

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解説

このカー(湧泉)は、海浜の岩陰からコンコンと水が湧き、今でも海水浴などの行楽時に盛んに利用されている。現在のように水道が普及するまでは、瀬名波は水利に乏しく、集落内に井戸が少なかったため、洗濯や水浴などはここを利用した。戦前、川平集落の住民は、急勾配の坂道を上り下りしてここから各家庭まで水を運んでおり、大変な重労働であった。 赤子が生まれた時には産湯に供され、瀬名波の産井(ウブガー)であり、また正月には若水を汲んだ。1904(明治37)年の大干ばつにも瀬名波ガーの水は涸れず、他字からも水を汲みにきた。また、戦中、戦後の混乱期にも飲料水として多くの人びとの助けとなった。亥年の最初の亥の日に、瀬名波ガースージ(祝い)を行っている。1935(昭和10)年、亥年の2月には、湧き水をそのまま海に流すのはもったいないと囲いを造成し、大きなスージをした。現在でも瀬名波では水の恩に感謝し、大御願、フトゥチ御願で拝している。近年では、瀬名波ガー付近一帯の海岸に、砂や漂流ゴミが急激に流入し、その処理に瀬名波の字民は頭を悩ませている。瀬名波ガーにも大量の砂が流入し、その除去作業も困難なものである。瀬名波ガーが位置する瀬名波の海岸一帯は「沖縄海岸国定公園」に指定されており、この一帯の何らかの保全策が待たれるところである。(「瀬名波ガイドマップ」瀬名波のカー、瀬名波ガー)

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