読谷村しまくとぅば「むんがたい」

猿長者 さるちょうじゃ

話者 神谷カマド(1902・M35) 地域 瀬名波 時間 03:44
  • しまくとぅば
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 あぬ(ぅんかし)年寄(とぅし)夫婦(みーとぅんだ)めんしぇーん(とぅくる)()たん。あんしなー、貧乏者(くーしーむん)なんそーち、なー()(むぬ)(いき)らはぬうりやみしぇーたんでぃ。うぬ(ばー)にあぬ、「なー、今日(ちゅー)やなー(ひー)正月(そーがち)さーやー、ウスメー」でぃち、ただあんしめんしぇーるばーに。


 ある(ちゅ)ぬ、一番(いちばの)(とぅない)金持(いぇーき)(ちゅ)(やー)からめんそーちゃーに、「(わん)ねー、今日(ちゅー)一夜(ちゅゆる)ぉなー(とぅ)まらさんなー」でぃ()みそーちゃぐとぅ。うぬ金持(いぇーき)(ちゅ)(やー)や、「物乞(むぬくー)やー(なま)から(とぅ)まらすんでぃちんあみ、如何(いか)なしん(とぅ)まらさん」でぃち、なー其処(ぅんま)からー()らさってーみしぇーるふーじーて。


 あんさぐとぅ、またうぬ(ひー)正月(そーがち)ぬお(ばあ)さん(たー)んかい、うぬ(ちゅ)ぉめんそーちぇーるふーじ。「(わん)ねー(とぅ)まらち(くぃ)り」でぃちゃぐとぅ、「あーなー、あんやんな、(わっ)たーなー(ぬー)()(むん)りちん(ねー)びらんや、かんし(ひー)正月(そーぐゎち)るえいびんどー」んでぃち。さぐとぅ、「あんしん()たさぐとぅ、(とぅ)まらち(くぃ)り」でぃち、なーあぬ、うぬ(ちゅ)其処(ぅんま)んかい(とぅ)まいみそーちぇーるふーじーて。


 あんさぐとぅ、うぬ(ちゅ)ぬ、「とーいったー、ぃやーやあんしぇー(なーび)ひきれー」でぃち、(みじ)()ってぃ(なーび)ひきたぐとぅ。あんさーにうぬ(ちゅ)(くみ)ぐゎー(いふ)ぃる()りみしぇーぬぐとーしがや、うぬお(ばあ)さんが()みそーちゃぐとぅ、なー、なー(なーび)ぬいっぱいなてぃよ。あんさーに、うりさーに(とぅし)(とぅ)みそーちゃんでぃ、うぬお(ばあ)さん(たー)や。


 あんしさぐとぅ、また翌日(なーちゃ)ぁ、「とー若水(わかみじ)りちて、(みじ)()りっ()っうりしー」でぃち、うぬ(ちゅ)ぬ、あぬだー()みそーちゃーに。うぬ若水(わかみじ)()りっ()(あち)らち、翌日(なーちゃ)()みそーちゃぐとぅや、なーお(ばあ)さん()ぁいっぺー(わか)くなてぃめんしぇーんでぃよ、夫婦(みーとぅんだ)


 (わか)くなてぃめんしぇーたぐとぅ、また(とぅない)ぬん、金持(いぇーき)(ちゅ)(ぬーし)(ちゃー)んうり()ちゃーに、「貴方(うんじゅ)なー(ぬー)んち、あんし(わか)くなてぃめんしぇーが」んち、「あんあんし、さぐとぅ、なー私達(わった)(わか)くなとーんでー」んでぃ()みそーちゃぐとぅ。「あんしぇー、うぬ(ちゅ)何処(まー)んかい()みしぇーたが」でぃち。


 あんさーに、またわざわざうぬ人頼(ちゅたぬ)りめんそー(ちゃー)に。また、(むとぅ)準備(じゃんめー)しみしぇーんて、若水(わかみじ)ぇなーうりさーにさぐとぅ。うぬ(ちゅ)(ちゃー)やうぬ(みじ)()みたぐとぅ、なー全員(むる)生物(いちむし)んかいなてぃよ。其処(ぅんま)主女(ぬーしゐなぐ)(さーるー)なてぃめーたんでぃ。また、(とぅい)んかいないしん(をぅ)い。若水(わかみじ)さぐとぅ全員(むる)、なー銘々(めーめー)なー生物(いちむし)んかいなてぃ(わっ)くぃてぃ(をぅ)らん。


 あんさーにかい、あんし「うぬ(やー)から、此処(くま)んかい(うち)り」んち、うぬ(ちゅ)ぬ。なー御神(うかみ)やみしぇーてーるばーて。うぬ金持(いぇーき)(ちゅ)(やー)んかいうぬお(ばあ)さん(たー)二人(たい)ぐー(うち)みそーらちゃぐとぅ、なー毎日(めーなち)(さーるー)がきじーが(ちっ)よ。


 あんし、うぬまた(ちゅ)ぉ、御神(うかみ)ぇまた(みぐ)てぃめんそーち、「ちゃーやが」んでぃちゃぐとぅ。「なー、あぬ(さーるー)毎日(めーなち)うりっし(ちぇー)ういし邪魔(じゃま)っしないびらんさー」んちゃぐとぅ、「ゑーあんやんなー」でぃやーに、「あんさーあぬだー(やま)から、あぬ黒石(くるし)(てぃ)(ちゃー)にやー(ひー)んかい()ちちきてぃ、うりがちゃー(ゐー)(とぅくる)んかい()ちょーけー」んでぃ()みそーちゃぐとぅ。


 あんさーに、あぬー、うぬ(ちゅ)ぉまた黒石(くるし)()ち、(ちゅー)時分(じぶん)ねー其処(ぅんま)んかい()ちぇーたぐとぅ。うりんかい(ちび)()きてぃ()ちゃぐとぅ、(さーるー)(ちび)(あかー)なとーんでぃぬ(はなしー)。うりんうっさ。

 昔、あるところに老夫婦が住んでいた。それは貧乏で、食べ物もろくに無かったそうだ。食べ物も無いので、「もう今日は、火に暖まって年越しをしようね、じいさん」と、大晦日の晩を過ごしていたようだ。



 隣の金持ちの家では、ある人が訪ねてきて、「私を今夜一晩泊めてくれないか」と言った。「こんな時に乞食を泊めることができるか、絶対泊めることはできない」と、その人は金持ちの家から追い払われてしまった。




 それで今度は、その貧乏な老夫婦の家へやって来た。「私を泊めてくれ」と言うと、「そうですか、うちは食べ物も何も無くて、こうして火にあたって年越しをしているのですが」と答えると、「それでもいいから、泊めてくれ」と、その人は泊まられたようだね。




 そしたら、その人に、「さあ、鍋を火にかけなさい」と言われたので、鍋に水を入れて火にかけた。その鍋にその人が米を少し入れるようだったが、鍋にはいっぱいの御馳走が炊き上がってね。そうして、おばあさんたちは、その御馳走で年越しをしたそうだ。



 そして、翌元日には、「さあ、年の初めの水を汲んで来なさい」と言われた。それで、水を汲んで来て沸かして浴びたところ、夫婦二人ともとても若くなった。




 二人が若くなったということを、隣の金持ちが聞きつけて、「あなたたちはどうして、そんなに若くなったのか」と聞いた。「このようなことがあって、私たちは若くなったんだよ」と訳を話すと、「それで、その人はどこへ行かれたのか」と聞いて、その人を追って頼みこんだ。



 それで、その人はわざわざやってきて、貧乏な夫婦にしたように水を準備させた。そうして金持ちの家の人達が浴びたら、もう皆、動物になってしまった。女主人は猿になったんだって。また鳥になってしまった者やいろいろな動物になって、金持ちの家の人は皆、散り散りになったという。



 その人は、きっと神様だったんでしょうね。貧乏な夫婦に、「誰もいなくなった金持ちの家に移りなさい」と言って、金持ちが住んでいた家に、二人を住まわせた。そしたらもう、毎日猿が荒らしにやって来てね。


 しばらくして、そこにまた、その人、神様がまわって来られ、「どう過ごしているかね」と聞いた。そこで、「毎日、あの猿がやって来て、邪魔をして困っています」と言うと、「ああそうか、それならば山から黒石を取って来て、その石を火で焼きつけて、その猿がいつも座る所に置くとよい」と言われた。


 それで、夫婦は、黒石を焼きつけて、猿が来る時分にそこへ置いた。さっそく猿が現われ、その黒石に座り、尻を焼いた。それで猿の尻は赤くなったという話だよ。これでおしまい。


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